コヒーレント測距センサの信号処理層です。ここが空いていたことは推測ではなく実測で、それが本族の存在理由そのものです。
fullseye には測距の幾何はありました — lidar_scan / pseudo_lidar は光線を飛ばして面に当て、距離を返します。しかし信号処理層が丸ごと空で、doppler / radar / beamform / delay_and_sum はどの在庫表面(型付きカタログ・進化レジストリ・api.py・ソース全体の静的 def 走査)でも 0 件でした。結果として速度は「不正確」だったのではなく、表現する型が存在しませんでした。
飛行時間だけを測るセンサは「どれだけ遠いか」に答えます。コヒーレントなセンサ — 周波数変調連続波(FMCW)レーダ、あるいは周波数掃引型のライダ — は、戻ってきた波の位相を保つので、同じ 1 回の取得から「どれだけ遠いか」と「どれだけ速いか」の両方に答えます。しかもそれは追加の測定ではなく、チャープを繰り返した軸にもう 1 回 Fourier 変換をかけるだけで落ちてきます。両軸とも閉形式です。
8 op / 4 カテゴリ(numpy のみ、台帳は opsrangedoppler.py、実体は rangedoppler.py):
• design(1) — fmcw_design: 波形パラメータだけから bin 幅・分解能・3 つのエイリアス限界を返す。データが 1 バイトも無い段階で「この波形で見たいものが見えるか」に答える。visiondesign が光学に対して取っている「画像でなく限界を返す」立場と同じです。
• simulate(1) — fmcw_beat_simulate: 前方モデル。既知の距離・速度・到来角・振幅を入れると複素ビート立方体が出る。この族の全テストのグラウンドトゥルースの供給源。
• process(4) — fmcw_window_apply / range_doppler_map / range_doppler_peaks / fmcw_range_profile: 2 次元 FFT(高速時間 → 距離、低速時間 → 速度)、主ローブ幅とサイドローブ準位を交換する窓、bin 番号をメートルと m/s に戻す検出段、そして静止シーン用の 1 次元レンジプロファイル。
• beamform(2) — beamform_delay_sum / beamform_doa: 直線配列(ULA)から角度軸を取り出す古典的な遅延和(Bartlett)ビームフォーマ。1 つのレンジ-ドップラーセルに適用します。
物理は 4 行で、この族のテストはほぼ全部この 4 行から導いた恒等式です(Mahafza, *Radar Systems Analysis and Design*, CRC / Richards, *Fundamentals of Radar Signal Processing*, McGraw-Hill / Van Trees, *Optimum Array Processing*, Wiley 2002 / Harris, *Proc. IEEE* 66(1), 1978):
1. 傾き S [Hz/s] のチャープが距離 R から tau = 2R/c 遅れて戻り、混合後に **ビート周波数 f_b = 2SR/c** を残す → レンジ bin f_b*N_s/f_s。
2. チャープ間隔 T_c の間に標的は v*T_c 動き、これは搬送波位相で **4*pi*v*T_c/lambda** → 速度 bin 2*v*T_c*N_c/lambda。
3. 到来角 theta の平面波は素子間隔 d ごとに **2*pi*d*sin(theta)/lambda** 位相が進む → 位相を除いて足すと真の theta でピーク。
4. 上の 3 つはどれも Fourier 対なので、どれにもエイリアス限界がある: R < c*f_s/(2S)、|v| < lambda/(4*T_c)、|sin theta| < lambda/(2d)。これは意見ではなく数です。
データ種は既存語彙の再利用が基本です: image2d(レンジ-ドップラーマップ)、signal(角度スペクトル・レンジプロファイル)、table(設計値・検出表・DOA 結果)。新語は 1 つだけ、beatcube((n_antennas, n_chirps, n_samples) の complex 3 次元配列)です。
beatcube を新設した理由は 3 つで、どれも実測に基づきます。(a) 3 次元 complex の既存語彙が無い(cimage は 2 次元 complex)。(b) dToF の histcube と共有できない(次節)。(c) 実(real)配列を受け付けないという契約がこの型の本体(後述の入力契約)。
なお beatcube は voxel / sdf / labels / pairs / score の述語も同時に満たします(どれも ndim == 3 しか見ないため)。これは qimage が置かれているのと同じ状況で、連鎖ファザーのプールは宣言型の名前で引かれるので分離は成立します。逆向き(既存の生成器が beatcube を名乗る)は起きないことを全生成器で実測確認済みです。
「狭い sort」にならないための入口と出口も設計に入っています。入口は fmcw_beat_simulate(引数だけの源)と fmcw_window_apply(beatcube → beatcube)、出口は range_doppler_map → image2d(本 repo で最大のプール)、fmcw_range_profile / beamform_delay_sum → signal、range_doppler_peaks / beamform_doa → table。1500〜3000 連鎖の実測で 8 op すべてが到達し、未実行ゼロです。
| やりたいこと | 使う op | 置き場所 |
|---|---|---|
| どこに面があるか(光線を飛ばして当てる) | lidar_scan / pseudo_lidar | lidar_sim。本族は光線を 1 本も飛ばしません — 距離は入力として与えられ、こちらは「その距離と速度がコヒーレントセンサでどんな信号になるか」を作ります。両者は上下に積む関係で、競合しません |
| 直接飛行時間(dToF)による距離 | dtof_depth / dtof_cube_simulate / dtof_cube_depth / tcspc_* | photoncount。同じ「距離」を逆の原理で出します(次項) |
| 1 次元スペクトル・帯域通過・ピーク検出・包絡線 | spectrum / bandpass / find_peaks / envelope / smooth_funct_1d_gauss | dsp / funct1d。fmcw_range_profile と beamform_delay_sum の返りは素の 1 次元 float64 なので、あちらの op がそのまま適用できます(ラップし直していません) |
| 軸受診断・次数分析・騒音レベル・2 チャネル伝達関数 | envelope_spectrum / order_spectrum / equivalent_level / coherence / transfer_function | acoustics(遅延和ビームフォーミングとの関係は下記) |
| マップ上の輝点を拾う(閾値・morphology・ラベリング・blob 計測) | 2 次元 op 一式 | fullseye 本体。range_doppler_map が image2d を返すのは意図で、CFAR 型の検出器はまさにこれらの部品でできています |
| レンズ・回折・被写界深度・偏光 | thin_lens / mtf_diffraction / stokes_analyze ほか | optics。あちらは光学系の設計、こちらは受信後の信号処理で、層が違います |
photoncount(dToF)との関係 — 型を分けた実測上の理由同じ「距離」を返しますが、原理が逆です。dToF は光子の到達時刻を数えて、非負のカウントヒストグラムから d = c*t/2 を読みます。FMCW は戻った波の位相を測って、複素のビート周波数から f_b = 2SR/c を読みます。dToF に速度軸は存在せず、FMCW は単一光子を数えられません。
型を共有しない判断は実測に基づきます。素の状態では両方向とも fail-closed が効きます(複素の beatcube を dtof_cube_depth に渡すと photoncount 側が complex を拒否し、実の histcube を range_doppler_map に渡すとこちらが real を拒否)。しかしキャスト 1 回で破れます:
• np.abs(beatcube) を dtof_cube_depth に渡す → 例外なく深度マップ(実測 0.0150〜1.2142 m)が返る
• histcube.astype(complex) を range_doppler_map に渡す → 例外なくマップ(実測 26.74〜2265.5)が返る
どちらも「もっともらしく間違った答え」です。dtype の検査だけでは連鎖ファザーの型接続としては守れないので、宣言型のレベルで分けました — histcube を voxel から分けたのとまったく同じ判断です(形は両方 (4, 32, 64) の 3 次元で一致し、dtype だけが違う)。
acoustics(音響・振動)との関係 — 数学は同じ、置き場所が違う遅延和ビームフォーミングはマイクロホンアレイと数学的に同一です。素子間隔 d の直線配列に、到来角 theta から平面波が来ると、素子ごとに位相が 2*pi*d*sin(theta)/lambda ずつ進む。この位相を除いて足す(= 遅延和)とピークが真の方向に立つ。音波でも電磁波でも、変わるのは波長 lambda = c/f の c が音速か光速かだけで、式は 1 文字も変わりません。したがって本族の beamform_delay_sum / beamform_doa は、原理的には音響アレイの音源方位推定にもそのまま使える式です。
にもかかわらず op を分けていない(あちらに複製していない)理由は、acoustics がアレイ型を持っていないからです。実測で確認したところ、opsacoustics の 19 op はすべて signal の単チャネルか 2 チャネル(coherence / transfer_function)で、beamform に相当する op も、多素子スナップショットを表す型もありません。本族のビームフォーマは beatcube の 1 つのレンジ-ドップラーセルから取り出した素子ごとの複素スナップショットに対して働くもので、その入り口が acoustics 側には存在しません。
将来アレイ型を足すなら、beatcube に相乗りさせるのではなく別の型にすべきです — こちらは「アンテナ × チャープ × 高速時間」で、音響アレイのスナップショットは「マイク × 時間」あるいは「マイク × 周波数」で軸の意味が違い、渡し違えても例外は出ないからです。共有すべきなのは式の実装であって型ではありません。
全 op が入力を検証してから計算します。以下は 2026-09-01 の敵対監査で実際に見つかったバグ 5 件と、それを塞ぐために書いた罠です。5 件とも例外を出しませんでした。全部、自信満々に間違った数を返していました — この repo が最も危険とみなす種類の失敗です。
sin() で黙って折り返されるfmcw_beat_simulate(angles_deg=[95.0]) が生成する立方体は、angles_deg=[85.0] のものと ビット完全に同一でした(max|diff| = 0.0)。beamform_doa はそれを 85.0 度として復元します。190 度は −10 度になりました。
原因は sin(95°) == sin(85°) で、直線配列に後方半球は存在しないのに sin() が後方を前方へ折り畳んでしまうことです。頼んだシーンと違うシーンの立方体が、何の診断も無しに返っていました。対策は sin() を呼ぶ前に |theta| <= 90 を検査すること。順序が効いています — sin() の後では情報が既に失われています。
8 素子・素子間隔 1e-12 m で角度スペクトルを取ると、ピークと谷の差が 厳密に 0.0(完全に平坦)になり、beamform_doa は **[-90.0]** を返しました。これは格子の先頭の点で、argmax のタイブレークの産物であって方向ではありません。同じ構成で fmcw_design は角度分解能を 2.5e10 度 と無言で報告していました(1 素子でも 101.5 度 — どちらも「分解能」ではありません)。
「方向が無い」には 2 通りあり、どちらも同じでっち上げに終わります: 素子が 1 つ(基線が無い)と、多素子だが波長よりずっと短い開口に詰まっている。対策は両方を拒否すること — 条件は 0.886*lambda/(N*d) < pi、つまり開口が約 0.28 波長より長いこと。あわせて fmcw_design は解けない構成で angular_resolution_deg に**数ではなく None** を返し、aperture_wavelengths で理由が見えるようにしました。まだ評価できてしまう式は、答えがあることの証明ではありません。
2 標的(レンジ bin 3 と 20)の立方体に beamform_doa(cube, range_bin=20) を呼ぶと、**bin 3 の標的の角度が返り、しかも返り値の range_bin フィールドも 3 と報告**していました。片方の標的について聞いたのに、別の標的について答えられ、答えた相手も嘘をついていたことになります。
原因は「range_bin か doppler_bin のどちらかが None なら最強セルを使う」という分岐でした。対策は両方指定か両方省略のみ許可すること。ついでに入力の doppler_bin の規約を range_doppler_peaks が返す符号つき bin に統一したので、検出結果をそのまま渡せます(下の 4D 検出パイプライン)。
range_doppler_peaks がレンジ軸の最初と最後の列をマスクしていたため、**マップの argmax そのものである bin 63 の標的で検出が [](ゼロ件)** になりました。マップで最も強いセルが、検出表に 1 行も出ないという状態です。
対策は端をマスクせず −inf でパディングし、「存在する隣接セルとだけ比較する」に変えること。ドップラー軸は巡回で比較します(速度は FFT の中で本当に周期的で、最も速く遠ざかる bin の隣は最も速く近づく bin です)。レンジ軸は開いて比較します。レンジ bin 0 も普通に報告します — 実機ではそこは送信漏れ(DC)であって標的ではないことが多いのですが、他人のデータに黙って方針を適用するより、閾値は呼び出し側で切ってもらうほうが正直です。
amplitudes=[1e307] で作った立方体は全要素が有限で、入力検査を素通りします。その後 range_doppler_map が返したマップの最大値は **nan** で、知らせるものは numpy の RuntimeWarning だけでした。N 点の FFT は最大サンプルの N 倍まで大きくなり得るので、有限の入力が無限の出力になります。
対策は変換の直後に有限性を検査し、原因(オーバーフローした軸と入力の最大絶対値)を名指しして ValueError にすること。読めない警告 + 汚染された配列を、明示的な拒否に交換しています。
3 つのエイリアス限界はどれも fmcw_design が返す数で、fmcw_beat_simulate が同じ数で拒否します。「通していたら何になったか」も計算できるので併記します(既定波形 = 64 サンプル × 32 チャープ、S = 2e13 Hz/s、f_s = 10 MHz、T_c = 50 µs、lambda = 3.8934 mm)。
| 頼んだもの | 挙動 | 通していたらこう見えた(実測値) |
|---|---|---|
| R = 76.12 m(R_max = 74.95 m) | 拒否 | レンジ bin 1.0 = 1.17 m。74 m 手前の別の標的になる |
| v = +21.90 m/s(v_max = 19.467 m/s) | 拒否 | 速度 bin −14 = −17.03 m/s。遠ざかる標的が近づく標的として報告される(符号が反転) |
| v = 72(km/h のつもり) | 拒否 | v_max を超えるので偶然捕まる(下記) |
| theta = 40 度、素子間隔 2λ | 拒否 | グレーティングローブが主ローブと区別できない |
| theta = 95 度 | 拒否 | 85 度の立方体とビット完全に同一(罠 1) |
正直な限界: 単位の取り違えのうち、窓の中に収まるものは検出できません。 72(km/h のつもり = 20 m/s)は v_max = 19.467 m/s を超えるので拒否されますが、これは上限による偶然の防御です。30 km/h(= 8.3 m/s)を m/s と取り違えたら、30 m/s は窓の中なので何も起きません — もっともらしい速度が、もっともらしく間違ったまま返ります。これを機械的に検出する方法は無く、防げているふりもしません。
• **実(real)配列は ValueError**。これが beatcube 型の本体で、理由は次節の「できないこと」に実測つきで書いてあります。
• 単位は引数名に埋め込む — _m / _ms(メートル毎秒)/ _s / _hz / _deg。大きさから単位を推測する処理は一切しません。
• **文字列・bool・complex は ValueError**。float("77") は成功してしまうので、配列は生の dtype の kind を cast の前に検査します(np.asarray(["77"], float) も成功するため)。bool は True == 1.0 の暗黙昇格として拒否。
• **波長の上限 MAX_WAVELENGTH_M = 1e4 m。これは証明ではなく境界で、仕事は 1 つだけ — 搬送波周波数**(例 77e9)をメートルの引数に渡す取り違えを捕まえることです。その値だとエイリアス検査が全部素通りし、速度軸が意味を失いながら絵だけはマップに見えます。
• チャープ 1 本 / サンプル 1 点は拒否。1 チャープの取得にはドップラー bin が 1 つしか無く、それを「v = 0」と報告するとどんなに速い標的も静止と札を貼られます。
• 「検出するものが無い」は拒否。全ゼロのマップに argmax を掛けるとセル (0, 0) が返り、それは測定ではなく捏造された検出です。
• サイズ上限は complex128 昇格の前に効かせる — MAX_CUBE_ELEMENTS(2²², complex128 で 67 MB)/ MAX_SAMPLES(2²⁰)/ MAX_CHIRPS(2¹⁶)/ MAX_ANTENNAS(2¹²)/ MAX_TARGETS(2¹⁶)/ MAX_ANGLES(2¹⁶)。立方体は N_a * N_c * N_s で伸びるので、小さな引数から巨大な確保が起きます。昇格の後に置いた上限は上限として機能しません(complex64 の入力なら、検査する頃には既に倍にしてしまっている)。検査は宣言された shape だけを読み、データには触れません。
• 角度格子は狭義単調増加が必要。順序の無い格子では「スペクトルの局所最大」が定義できません(これで間違った数は作れませんでしたが、契約として先に書いてあります)。
fmcw_window_apply を range_doppler_map に畳み込まず独立の op にしてあるのは、この取引を差分として測れるようにするためです(そして変換 op を純粋な 2 次元 FFT のままにするため)。
窓自身を 2¹⁸ 点で零詰めして変換し、第 1 零点より外の最大ローブを取る — これがピークサイドローブ準位(PSL)の定義そのものなので、下の数値は本モジュールで測ったものであって引き写しではありません。
| 窓 | 文献値 PSL | 実測 PSL | 実測 −3 dB 主ローブ |
|---|---|---|---|
| rect | −13.3 dB | −13.25 dB | 0.885 bin |
| hann | −31.5 dB | −31.47 dB | 1.438 bin |
| hamming | −42.7 dB | −42.45 dB | 1.301 bin |
| blackman | −58.1 dB | −58.11 dB | 1.641 bin |
hamming だけ文献値と 0.25 dB ずれます。理由は分かっていて、文献値が最適係数 0.53836 / 0.46164 のものであるのに対し、ここは教科書の 0.54 / 0.46 を使っているからです。値を合わせにいくのではなく、使った係数で実際に出る値を書いてあります。
窓は周期形(DFT-even)です。np.hanning が返す対称形(分母が n-1)はフィルタ設計向けで、スペクトル解析には誤った窓です — 周期延長したときに 1 サンプルの不連続が残り、上の文献値が成り立ちません。差はサンプル 1 個ですが、その 1 個が −31.5 dB と別の数の差です。
強い標的を bin 10.5(半 bin ずれ = 漏れが最悪になる位置)に置き、そこから 10 bin 離れた bin 20 に 45 dB 弱い標的を置きます。
| 窓 | ピーク損失 | bin 20 の高さ(真値 −45 dB) | 局所最大か |
|---|---|---|---|
| rect | −3.92 dB | −24.57 dB | いいえ |
| hann | −7.44 dB | −43.56 dB | はい |
| hamming | −7.10 dB | −39.15 dB | はい |
| blackman | −8.63 dB | −43.90 dB | はい |
窓なしでは弱い標的はピークですらありません — 強い標的の漏れの裾に埋もれ、真値より 20 dB も高い −24.57 dB のところに乗っています。hann を掛けると −43.56 dB のきれいな局所最大として出てきます。これが窓を op にしてある理由です。
ついでに rect のピーク損失 −3.92 dB は半 bin ずれのスキャロッピング損失 2/π ちょうどで、これは rect が本当に恒等窓であることの閉形式の検算になっています。
1 回の取得から距離・速度・角度の 3 つを取り出す筋(検証済み examples/fmcw_range_doppler.py そのもの)。データ種が table → beatcube → image2d → table と繋がり、検出の doppler_bin をそのまま beamform_doa に渡せます(符号規約が同じ)。
Mermaid 図(ソース):
flowchart LR
A[波形パラメータ] -->|table| B[fmcw_design bin 幅・3 つの限界]
C[既知の R, v, theta] --> D[fmcw_beat_simulate 前方モデル]
D -->|beatcube| E[fmcw_window_apply hann]
E -->|beatcube| F[range_doppler_map 2D FFT]
D -.窓なしの経路.-> F
F -->|image2d| G[range_doppler_peaks 検出]
B -->|range_bin_m / velocity_bin_ms| G
G -->|table: 距離 m, 速度 m/s, 符号つき doppler_bin| H[beamform_doa 到来角]
D -->|beatcube| H
H -->|table| I[4D 検出 R, v, theta]
D -->|beatcube| J[fmcw_range_profile 静止シーン]
J -->|signal| K[dsp.find_peaks / funct1d]
D -->|beatcube| L[beamform_delay_sum 角度スペクトル]
L -->|signal| K
import rangedoppler as R
# 1) 波形を紙の上で設計する(データはまだ無い)
d = R.fmcw_design(n_samples=64, n_chirps=32, n_antennas=8)
dr, dv = d["range_bin_m"], d["velocity_bin_ms"]
print(round(dr, 4), round(dv, 4)) # 1.1711 m, 1.2167 m/s
print(round(d["max_unambiguous_range_m"], 2), # 74.95 m
round(d["max_unambiguous_velocity_ms"], 3)) # 19.467 m/s
# 2) 既知の (距離, 速度, 到来角) からビート立方体を合成する
cube = R.fmcw_beat_simulate([3 * dr, 20 * dr], [4 * dv, -2 * dv],
angles_deg=[10.0, -40.0], amplitudes=[1.0, 0.4],
n_samples=64, n_chirps=32, n_antennas=8)
# 3) 2D FFT -> 検出 -> 角度。bin 幅を渡さないと返りは「メートル」ではなく
# 「ビン番号」になる(単位の落とし穴の節を参照)
rdmap = R.range_doppler_map(R.fmcw_window_apply(cube, "hann"), normalize=True)
for p in R.range_doppler_peaks(rdmap, dr, dv, n_peaks=2)["peaks"]:
doa = R.beamform_doa(cube, range_bin=p["range_bin"],
doppler_bin=p["doppler_bin"]) # 符号つき bin をそのまま
print(round(p["range_m"], 4), round(p["velocity_ms"], 4), doa["angles_deg"])
# 3.5132 4.8667 [10.0]
# 23.4213 -2.4334 [-40.0]
**range_doppler_peaks の range_bin_m / velocity_bin_ms の既定値 1.0 は「メートル」ではなく「ビン番号がそのまま返る」という意味です。**
R.range_doppler_peaks(rdmap)["peaks"][0]["range_m"] # 3.0 <- ビン番号 R.range_doppler_peaks(rdmap, dr, dv)["peaks"][0]["range_m"] # 3.5131928671875 <- メートル
これは実際に踏まれた落とし穴です(配線時の一次検証で「距離が合わない」と読まれ、原因は bin 幅を渡さずに既定のまま呼んだことでした)。返り値のフィールド名が range_m / velocity_ms なので、渡し忘れると単位の名前だけが正しく、値がビン番号という状態になります。
既定値をこの族の標準波形に合わせなかったのは意図的です。ここで特定の波形を既定にすると、まったく別の波形で撮ったマップからメートルを読めてしまうからです。1.0 は「まだ換算していない」という意味の中立値で、fmcw_design の返りをそのまま渡すのが正しい使い方です。
同じ規約が beamform_doa の range_bin_m / velocity_bin_ms にもあります。こちらは既定が None で、渡さなければ range_m / velocity_ms は数ではなく None が返ります — 単位の分からない数を返すより、答えないほうが正直だからです。
• FMCW のビート周波数とレンジ-ドップラー処理: Mahafza, *Radar Systems Analysis and Design Using MATLAB*, CRC / Richards, *Fundamentals of Radar Signal Processing*, McGraw-Hill。デチャープ後の位相 2*pi*(f_c*tau + S*t*tau) と、その低速時間微分としてのドップラー項。
• 遅延和(Bartlett)ビームフォーマと ULA のビーム幅: Van Trees, *Optimum Array Processing*, Wiley 2002, §2.4。ボアサイトの 3 dB ビーム幅 0.886*lambda/(N*d)、ボアサイトから外れると 1/cos(theta) で広がる(これは数ではなく関数なので fmcw_design は報告しません)。
• 窓関数とサイドローブ: Harris, "On the use of windows for harmonic analysis with the discrete Fourier transform", *Proc. IEEE* 66(1):51-83, 1978, Table 1。周期形の定義もここ。
• スキャロッピング損失 2/π: 同上。半 bin ずれの矩形窓の閉形式。
• 光速: SI 定義値 299792458 m/s(1983 年以降は定義)。媒質中はこれを屈折率で割ります。
_as_beat_cube は real 配列を dtype の段階で拒否します。この拒否は正しいのですが、初稿の docstring が書いていた理由は誤りでした。テストがそれを摘発しました。
初稿の主張は「実サンプリングでは共役対称性により +v と -v が同じ bin に落ちるので、速度の符号が失われる」でした。これはレンジ軸だけの 1 次元実信号については正しく、2 軸そろった場合には誤りです。テストを書いて実際に測ったところ、np.allclose が通らず、そこで初めて自分の説明が間違っていたことが分かりました。
実際に起きることはこうです。レンジ bin 10・速度 bin +4 の標的を実サンプリングすると、ピークは 2 つ 立ちます:
| 速度 bin | レンジ bin | 距離 | 振幅(実測) |
|---|---|---|---|
| +4 | 10 | 11.71 m | 0.5000 |
| −4 | 54 | 63.24 m | 0.5000 |
本物(bin 10)とまったく同じ振幅の幽霊が、でっち上げの距離 bin 54 = 63.24 m に、速度の符号を反転して立ちます。2 つの Fourier 軸がそろっていれば符号そのものは保たれています — 失われるのは「対のどちらが本物か」であって、マップ上にそれを見分ける材料は何もありません。加えて振幅は半分になり、使える一意測距範囲も半分になります。
複素(I/Q)の立方体なら、同じ標的はピーク 1 つ・振幅 1.0 です。結論(real は拒否)は変わりませんでしたが、理由は書き直しました。「もっともらしく聞こえる説明」を、テストが測った事実に置き換えた記録です。実サンプリングのデータを持っている場合は、高速時間軸(この族では軸 2)に沿って解析信号を明示的に作ってください。
前方モデルは、デチャープ後の厳密な位相に含まれる pi*S*tau^2 項(残留ビデオ位相)を落としています。これ自体は教科書どおりの扱いですが、**初稿の docstring はその理由を「S*tau^2 は ~1e-10 サイクルだから」と書いていました。これは 10 桁の誤りです。**
既定波形で実際に計算すると:
| 距離 | tau | pi*S*tau^2 |
|---|---|---|
| 3.5 m | 2.335e-08 s | 0.034 rad(0.0055 サイクル) |
| 74.87 m(一意測距範囲の端) | 4.995e-07 s | 15.68 rad = 2.495 サイクル |
端では 2.5 周も回っています。小さくありません。
落としてよい本当の理由は「小さいから」ではなく、**高速時間 n に依存しないのでレンジ bin を 1 つも動かさないから**です。低速時間方向には効きますが、その傾きをドップラー項の傾きと比べると S*tau*lambda/c で、実測 6.065e-6(3.5 m)〜 1.297e-4(74.87 m) — 速度 bin の 1e-4 未満のバイアスです。
ただしこの比は傾きにも距離にも線形に増えます。もっと高い傾き・もっと長い距離の構成ではこの項が必要になり、そこに達したことを警告する仕組みはこの族にありません。
• レンジ-ドップラー結合(レンジマイグレーション)を模擬していません。 標的はコヒーレント処理区間の全体を通じて 1 つのレンジ bin に居ると仮定しています。既定波形では良い近似で(最大非曖昧速度でも 1.6 ms の間に 0.031 m = レンジ bin の 2.7% しか動かない)、しかし実際に bin をまたぐ標的は滲みます。この前方モデルはその滲みを作りません。
• 伝搬もレーダ方程式もクラッタもありません。 amplitudes は呼び出し側が渡した数がそのまま使われます。1/R^4 も、大気減衰も、地面反射も、マルチパスも、受信機雑音指数もありません。あるのは明示的な sigma を持つ加法的な円対称ガウス雑音だけです。
• ビームフォーマは古典的なものです。 遅延和の分解能は開口で決まり(ボアサイトで約 0.886*lambda/(N*d)、8 素子 λ/2 で実測 12.69 度)、1 つのビーム幅の中の 2 標的は分離できません。実測では ±30 度の 2 標的は 2 本として出ますが、±2 度の 2 標的は 1 本に融合します — 2 本あるふりはしません。超分解能推定(MUSIC / ESPRIT)は共分散推定とモデル次数を要求し、壊れ方も違う別の契約なので、同じ名前の裏に紛れ込ませていません。
• エイリアス限界の外は拒否するだけで、外挿しません。 折り返した答えを返さないというのは、折り返された生データから真の値を復元してみせる、という意味ではありません(それには複数の波形か、複数の PRF が要ります)。
• 角度は 1 つの平面内です。 直線配列なので方位 1 軸だけで、仰角は分離できません。theta は配列軸を含む平面内のボアサイトからの角度です。
• tests/test_rangedoppler.py: 71 件が通過。bin 中心の標的はピーク振幅が **ちょうど 2048.0 = N_s*N_c(相対誤差 0.0)、3 標的でも距離誤差 0.0 m / 速度誤差 0.0 m/s / 振幅誤差 5.6e-17、ビームフォーマのピーク電力は ちょうど 268435456 = (N_a*N_c*N_s)^2、−80 度から +80 度を 5 度刻みで掃引した 33 角の到来角推定は 最大誤差 0.0 度**。
• ランダムな有効構成 3588 通り(奇数の n_samples 3/5/17/33/65、奇数の n_chirps 3/7/15/31、最小 2×2、素子数 1〜16、波長 1 µm〜10 cm、傾き 1e11〜1e14)で、ピーク位置・振幅・検出の自己整合・開口利得の違反ゼロ。
• 連鎖ファザー 3000 連鎖で 8 op すべてが 33〜46 回実行され、本族の finding ゼロ。
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